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東京高等裁判所 昭和58年(う)1047号 判決

裁判所書記官

松尾憲治

本店所在地

横浜市中区伊勢佐木町二丁目八五番地

有限会社萬善物産

右代表者代表取締役

西原敏光こと 韓在喆

本店所在地

横浜市中区伊勢佐木町二丁目八五番地

有限会社三洋観光開発

右代表者代表取締役

西原敏光こと 韓在喆

本店所在地(登記簿上)

新潟県新潟市春日町一一番九号

(事実上)

同県 同市 上所三丁目三番八号

有限会社三愛観光開発

右代表者代表取締役

富田憲治

右被告人らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五八年六月三日横浜地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は検察官鈴木薫出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人高瀬研治名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官鈴木薫名義の答弁書に各記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、被告人ら三社を原審検察官の求刑どおりの罰金刑に処した原判決の量刑は、重過ぎて不当であるというのである。

そこで、検討すると、本件はいずれも特殊浴場等の経営を目的とする被告人有限会社萬善物産、同有限会社三洋観光開発、同有限会社三愛観光開発の三社の代表取締役または実質上の経営者であった韓在喆において、右三社の業務に関し法人税を免れようと企て、入浴料の一部を当該各事業年度の収入から除外するなどの方法により所得秘匿工作をしたうえ、萬善物産、三洋観光開発については虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、三愛観光開発については脱税の意図で無申告のまま申告期限を徒過する方法により、三社とも二事業年分の法人税として、萬善物産は三一二七万五七〇〇円、三洋観光開発は一九四九万四〇〇円、三愛観光開発は二七一三万七〇〇〇円を免れたという事案であるところ、税逋脱率は萬善物産が約八三・四パーセント、三洋観光開発が約四六・三パーセント、三愛観光開発が一〇〇パーセントとそれぞれ高いこと、所得秘匿の手段が長期にわたり継続的に収入の一部除外を行なっている点で計画的であるうえ、特に昭和五二年度、同五三年度の法人税法違反の各罪により、昭和五六年九月、当裁判所で、萬善物産は罰金一四〇〇万円に、三洋観光開発は罰金一〇〇〇万円に各処せられていて、本件を含めると四年間連続して脱税を図ったことになり、犯情は悪質であること、本件において前記韓が企図した脱税の動機も特に酌量すべき事情とは認められず、会社の事業拡大をはかり、かつ、不時の場合に備える資金蓄積のためと称しながら、実際は収入除外金の多くの部分が韓自身の個人的使途に費消されるなどしていて資金蓄積の実は上らず、本件につき三社とも脱税額の本税すら未納付のままの状態であること等に徴すると、被告人三社の刑事責任は軽視できないのであって、特に萬善物産、三洋観光開発両社については、罰金額が重くなってもやむを得ないものといわなければならない。

そうすると、萬善物産、三洋観光開発両社の経営については、前記韓が右両会社の代表取締役に就任してその経営を担当するに至った際、前経営者金時鐘から利益を上げて滞納税金等を含む全債務を極力解消すべき旨の条件が付されたため、その履行に追われていた事情があること等、所論指摘の被告人三社のために酌むべき諸事情を斟酌しても、被告人三社に対する原判決の量刑(各逋脱税額に対する罰金の率は、萬善物産が約四七・九パーセント、三洋観光開発が約五一・三パーセント、三愛観光開発が約三六・八パーセントにあたる。)が重過ぎて不当であるとはいえないから、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 新田誠志)

○ 控訴趣意書

被告人 有限会社 萬善物産

被告人 有限会社 三洋観光開発

被告人 有限会社 三愛観光開発

右の者らに対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和五八年八月 日

右ら弁護人 弁護士 高瀬研治

東京高等裁判所 第一刑事部 御中

原判決は有限会社萬善物産につき罰金一五〇〇万円に有限会社三洋観光開発並びに有限会社三愛観光開発を各罰金一〇〇〇万円に処した。

右量刑はいづれも検察官の求刑のとおりであって、原審弁護人の主張立証した情状について全く考慮されていない。

本件被告会社のうち、有限会社三愛観光開発はもともと原審被告人韓在喆の所有経営であったが他の二社については右韓が自主的に経営していたものか否か疑わしく本件脱税事件の全責任を被告会社自体に負わせるべきものか、疑問の点なしとしない。

先ず三洋観光開発については、同社が昭和五四年八月法人税法違反によって査察調査を開始された直後の同年九月頃、右韓が、当時の同社の所有者経営者であった金田時男から譲渡されたとするものであるが、その対価たるや、右会社の銀行借入金の返済と、右法人税法違反による調査の結果課される、修正の税額と当然課される罰金と更に金一億円という多額のものであった。

右韓としては、右のごとき条件ではその後の経営が困難と考えたので、何度も右会社の譲受けを回避しようとしたが、最終的にはこれを譲受けることとし以後右会社の経営に当たってきた。

次に、有限会社萬善物産については、その経営する店舗についてエアポートは前記金田時男の経営する大栄観光開発、ソウルは同人の義理の姉の経営する平和商事からそれぞれ賃借しており、しかもその賃借料が前者は月額二〇〇万円後者は月額三〇〇万円という高額なものである。右韓が原審公判廷において述べたごとく、このような高額の賃借料では経営も困難であるという状態である。

以上のような状況から、右韓は、右三洋開発の譲受の代金に相当する銀行借入返済、修正後の法人税、罰金並びに万善物産関係の賃料を優先的に支払ったが或いは支払わされたため右韓はその経営する三社の売上収入の除外という初歩的、単純な方法によってこれらの金員を捻出した。その結果当然のことながら所得のほ脱となり、今回の訴追処罰となったものである。

弁護人としては、この自由経済の社会において、前記三洋観光開発の譲受方法と、萬善物産の賃料とに多くの疑問を感ずるものであり右韓がこれらを拒否する自由もあるのにこれをせず、結果として脱税行為に至ったことは、右韓と被告会社にその全責任はあると思うものの、何か弁護人にも不明であるが拒否できない事情が存在したのではないかとも思われやはり情状としてこの点を被告会社自体に対しても考慮していただきたいと考えるものである。

更に被告会社の経理を、何等経営上関係のない大栄観光開発の社員である丸山茂一が行なっていることは同人が原審公判廷において証言しているところであるが何故、営業上無関係の会社の社員が他社の経理を行なっているのか、疑問は更に大きく被告会社が果して実質的に独立性を保っている会社か否か、疑わしいが裁判所におかれては是非ともこの点を情状として御考慮願いたいと考えるものである。

又、被告会社三社はいづれも実質的に独立の会社であるか否か疑問であり本件脱税による留保金もその行方は不明であり、被告会社自体或いは経営者の韓に何らかの形で留保された様子も見られない。従って本件脱税による利得も少ないと思われる。

右のごとき事情から被告会社三社に対する罰金を減軽されるようお願いする次第であります。

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